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松野研究室におけるレスキューロボット開発
1995年の阪神淡路大震災の際、松野教授は神戸大学で助教授をしていました。その際、これまでの情報インフラが破壊され、情報の錯綜・混乱がおきました。
また、阪神大震災の際には、瓦礫の下の被災者(要救助者)について、72時間以内に発見しなければ、その生存率が低かったという報告もあります。
そこで本研究室では、特に被災地での情報収集を行う「情報収集型レスキューロボット」の開発に取り組んでいます。
2002年から2006年までは文科省の大都市大震災軽減化特別プロジェクト、2007年からはNEDOの戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクトの一環として、ロボットの開発を行っています。
松野研究室のレスキューロボット
大都市大震災軽減化特別プロジェクト
本プロジェクトは、NPO法人国際レスキューシステム研究機構(IRS)で開発が進められ、松野教授は、IRSの副会長として開発全体の取りまとめも行いました。本プロジェクトでは数多くのロボットシステム・情報システムが開発されましたが、ここでは、その中でも松野研究室が開発の中心的役割を果たしたロボットについて紹介します。
KOHGA
災害時の瓦礫内での要救助者の探索を目的に2002年から開発を行いました。
瓦礫内への進入や障害物の乗り越えを容易にするため、ヘビのように細長い形状をしています。
全部で8つのユニットから構成されており、バッテリやワイヤレスLANの搭載によって自立し、遠隔操縦によって操作します。
先頭と後方の2関節は能動関節、それ以外は受動関節となっています。先頭に能動関節を有することで、障害物乗り越えを容易にし、受動関節を有することで環境への適応性を高めています。
また、後方のユニットを持ち上げることで、KOHGAの特徴の一つである、「サソリ形態」を実現します。一般的に、ロボット先端に取り付けられたカメラからの映像のみでは操縦が困難であるため、後方のカメラを持ち上げ前方を映し出すことで俯瞰的な映像を提示することができます。
KOHGAには全部で18個のモータが取り付けられていますが、それらのモータを全てマニュアルで操縦するのは非常に困難です。そこで、KOHGAには、ロボットの先頭のユニットが描いた軌跡を後続のユニットが追従するような「先頭追従制御」を搭載し、複雑な形状のロボットであっても、遠隔操縦を容易に行うことを実現しました。
FUMA

地下街など広範囲の環境にて高速に動き、情報収集を行うロボットとして開発をしています。
RoboCupRescueの2004年大会の出場に合わせて開発を開始、2007年には、自律ロボットで公道1kmを自律走行する「つくばチャレンジ」という大会にも参加しました。
RoboCupRescueでは、2004年国内大会で優勝、2004年世界大会では5位、2005年世界大会では準決勝進出という成績を上げています。つくばチャレンジでは32チーム中8位で決勝進出し、最終的には9位という成績を収めました。
FUMAは高速移動のため、車輪型となっています。直径30cmの大径タイヤを用いて、多少の段差はそのままで走行することができます。
しかし、通常のタイヤですと、その半径以上の段差を乗り越えるのは無理が生じます。そこで、FUMAは本体後方に1自由度のアームを有しています。このアームで本体を支えたり、重心移動を行うことで、FUMAは最大で40cmの段差でも乗り越えることができます。
段差乗り越え性能を良くする1自由度のアームの先端には、ロボット本体が見えるように下向きに魚眼カメラを取り付けています。
このカメラの映像により、FUMAを遠隔操縦するオペレータは、ロボットを中心として、周囲の環境把握が容易は俯瞰的な映像を確保できるため、操作が簡単になります。この高いところから魚眼カメラで見下ろすという手法は、RoboCupにて、我々が行って以来、多くのチームでも採用されていてその有効性は世界的に認められています。
また、FUMAには、本体上に色々なセンサを搭載できるスペースがあるため、レーザーレンジファンダーを搭載しての、2次元及び3次元の地図作成も行うことができます。
KOHGA2&KOHGA3

災害現場では瓦礫が散乱した環境を乗り越えて被災者探索を行う必要があるため、瓦礫上を容易に走破する能力を持つロボットとして、トピー工業株式会社とともに2005年から開発を進めています。
移動機構として不整地走破性が高いクローラを採用し、クローラを上下にスイングすることができる「クローラアーム」とすることで環境に応じた形態変化を可能としています。
クローラアームロボットの機構配置を探査環境に応じて自由に変更できることが可能であり、ボディユニット、クローラアームユニット、ジョイントユニットを複数組み合わせて1台のロボットを構成します。このユニット構造により、いずれかのユニットが故障した際にはそのユニットを交換することで耐故障性の高いシステムを目指しています。
1ボディ2アーム(マニピュレータモード)、3ボディ6アーム(ヘビ型モード)、1ボディ4アーム(瓦礫上モード)など様々な構成が可能です。
これら様々な形状で走行性能の評価を行っています。
RoboCupのような瓦礫上環境では、1ボディ4アームモードが
有効だと考えられており、このモードでRoboCupRescue走破性部門において、2006年は優勝、2007年は準優勝に輝いています。
RoboCupには1ボディ4アームの構成で参加しています。
幅広いクローラベルトを装備した前後左右4つのクローラアームを用いて、これらを独立にスイングすることで段差に応じた姿勢変化を可能とし、激しい不整地であっても簡単に走行することができます。
またRoboCupでは、高さの異なるステップ状角材を不規則に並べた「ランダムステップフィールド(写真参照)」を走破しながら被災者の探索を行う必要があります。このような障害物を走破することは容易でなく、戦車のように車両本体の最低地上高の低いロボットではステップが本体に引っかかることでスタックしてしまいます。KOHGA2はモータ等を各クローラアームユニット内部に収めた構造であるため本体内部には駆動機構がなく、これにより本体の最低地上高を高くすることを実現し、ランダムステップフィールドにおいてもスタック発生が少ないロボットとなっています。
2006年にKOHGA2で走破性部門に優勝後、2007年にはより高速・高トルク化したKOHGA3も開発しました。
半自律不整地踏破システム
KOHGA2はクローラアームのスイングによる姿勢変化を用いることで高い不整地走破性を実現していますが、自由度が多いためにオペレータにとって操作が非常に困難であり大きな負担を伴うことが問題です。そこで、オペレータはロボットの走行指令のみを与え、段差踏破に必要なクローラアームのスイングはロボットが自律制御する「半自律不整地踏破システム」を導入しています。
安価な外界センサの情報に基づいてクローラアーム角度をロボットが自律制御することで、オペレータは前進指令を与えるだけで、段差の上り下りや階段昇降を可能としています。
また、ロボットがロール方向に回転してしまうような複雑な不整地においては横転の危険性があるため、ロール姿勢制御の導入によりランダムステップフィールドのような複雑な不整地も横転を回避しながら半自律踏破することが可能です。
戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト
NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」>「?.特殊環境用ロボット分野」>「?被災建造物内移動RTシステム」の一環として電気通信大学および株式会社インターネットイニシアティブ中心に採択されたプロジェクトです。
本プロジェクトの目指すもの
既存の情報インフラを前提にできない被災建造物内で、半自律高機動兄弟型移動ロボッ
ト群により、高度に安定した拡張性の高い情報インフラストラクチャを動的に構築する
とともに迅速に環境情報収集、提示することを可能とするシステムの開発を行っています。
松野研究室では、本プロジェクトの総括を行うと共に、操縦インタフェース、編隊制御、各システムの統合について、研究・開発を行っています。
平成18年度の成果から操縦インタフェースと編隊制御について、以下説明します。
操縦インタフェース
従来のレスキューロボットの操縦デバイスとしては、
ジョイスティックやラジコンプロポが用いられていました。
しかし、これらのデバイスでは、入力の微調整や、複数ロボットの同時操縦は困難でした。
そこで、本研究では、画面上に表示されている地図上でタッチペンによって目的地や目標軌跡を入力することで、ロボットをその地点まで自律的に移動させるようなインターフェースの開発を目的としています。
平成18年度の成果としては、単体ロボットに対して、経由点・目標地点をタッチペンで与え、それらを通過することを実現しました。
編隊制御
本プロジェクトでは動的障害物回避と伝送遅れを考慮した
ロボット群半自律制御系の開発を行っています.
ロボットの遠隔操作において,伝送遅れは制御系の性能劣化,不安定化の原因になるので,伝送遅れを考慮した制御系が必要となります.また被災建築物内では,複数の半自律ロボットを用いることで,効率的かつ迅速な情報収集が期待できます.これを実現するには,オペレータ一人で複数のロボットを操作できるような編隊制御が必要となります.
平成18 年度は,半自律ロボット群による編隊制御系を開発しました.開発した制御系では,特定した1台のロボット(リーダーロボット)のみを遠隔で操作し,残りのロボット(フォロワーロボット)はある定められたフォーメーションを保ちつつ,リーダーロボットを自律的に追従する動作を行うようにしました.
また各ロボットの自己位置をオドメトリにより推定し,得られた位置情報からロボット間の相対位置を検出し,それにもとづいてフォーメーションを維持するように制御系を構築しました.
研究室内サークル「SHINOBI」
SHINOBIとは
SHINOBIは松野研究室内のレスキューロボット開発サークルです。
2002年の福岡・釜山大会から、毎会参加し、優勝・準優勝など、輝かしい成績を収めています。